アジアの発展途上国の小児がん医療従事者と患者への支援
2023年8月26日に栄ガスホールで開かれた「名古屋小児がん基金 7周年記念イベント」に、代表の小野と、イラクから来日して名古屋大学医学部附属病院小児科で研修を受けている医師2名が登壇しました。
名古屋小児がん基金の3つの柱になっている1つが、アジアの発展途上国の小児がん医療従事者と患者への支援です。
名古屋小児がん基金へ寄せられる皆さまのご寄付は、日本の子どもたちだけでなく、発展途上国の子どもたちの命を救うためにも役立てられています。
イラクの子どもたちは、がんを患って命を失っている
医療支援を始めることになった2003年のイラク訪問
2003年2月、理事長の小野万里子がイラク戦争直前の現地を訪問し、子どもたちががんで命を失っていること、経済制裁による二重被害の事実に強い衝撃を受けたのが、セイブ・イラクチルドレン・名古屋の活動のきっかけです。
1991年の湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾の影響が強く疑われており、特に小児がんの患者が多発しています。
多くの赤ちゃんや子どもは戦争で負傷して命を失うのではなく、がんになって亡くなっているのです。
また、当時のイラクは経済制裁を受けており、抗がん剤も十分に手に入らない状況でした。
石油を売って放射線治療の設備を整えようとしても、国際社会がそれを禁止していたのです。
医師たちはがんの子どもたちを治そうとする手段を奪われ、医師はがんの子どもたちを治そうとしても治す手立てを奪われ、腕を磨くために勉強したくても受け入れてもらえない状況でした。
バスラでは環境汚染が広がって病気になって亡くなる方が多く、戦争被害が生じていました。
バスラのがんセンターのトップ、ジャワド医師から支援を求められたことが、イラク支援に関わるきっかけとなりました。
イラク人医師に学びの機会と、治る可能性がある患者を1人名古屋で治療してほしい
ジャワド医師からは、2つの要望がありました。
- イラクの若い医師たちは外部との接触が制限されており、新しい医療技術に触れる機会がありません。
彼らに学びの機会を提供してほしい。 - 小児がんの子どもたちはほとんど助からない。
治る可能性がある患者を1人、名古屋で治療してほしい。
現在では国際協力が進んでいるため、これらの要望は難しくないかもしれません。
しかし、当時はイラクに対する偏見があり、特に医療関係者の間ではその偏見が強かったのです。
医師の研修や患者の受け入れを約束してくれた病院が、突然キャンセルする事態もありました。
「あなたが、その医師や患者の保護者がテロリストの一味でないことを保証できるのか」
と問われたこともありました。
名大・小島先生「がんの子どもにも、治そうとする医師にも国籍は関係ありません」
しかし、名古屋大学 名誉教授の小島勢二先生(当時は、名古屋大学大学院医学研究科 小児科 教授)は、
「がんの子どもにも、治そうとする医師にも国籍は関係ありません。日本でもアメリカでも、イラクでも一緒です」
と言って、支援を引き受けてくださいました。
それ以降、14人のイラク人医師が来日し、研修を受けています。
現在、イラクのバスラには新しい大きながん病院ができ、そこに骨髄移植センターができました。
名古屋大学医学部附属病院で受けた充実した研修内容
「骨髄移植は、子どもたちの新しい希望」
バスラ子ども専門病院に勤務して、白血病などの悪性血液疾患の治療にあたるナイエフ医師は、名古屋大学医学部附属病院で受けた充実した研修内容を紹介しました。
「名古屋大学でトレーニングを受け、骨髄移植について学ぶのは本当に幸いなことです。
骨髄移植は、白血病やそのほかの重篤な病気で苦しんでいる子どもたちの新しい希望です。
村松秀城先生のトレーニングは包括的かつわかりやすい内容で、骨髄移植の過程がすべて網羅されていました。
朝は患者さんの回診で始まります。
そして、骨髄穿刺や身体組織採取検査などの研修を受け、最後はカンファレンスで病状についてディスカッションしました」
名大の学生と医師も大きな学びを得たディスカッション
ムハンマド医師は研修内容について、
「患者さんが移植を受ける前の時点から退院の前日までの旅路について学んだことが、一番印象的だった」と話しました。
ドナーの選定や合併症について英語の講義もあり、ムハンマド医師は自らが学んだことをアウトプットして整理し、学生や若い医師は英語でディスカッションする機会ができました。
新しい技術で子どもたちを助けるには、英語は必須です。
学生や若い医師にも、イラク人医師との交流は学びが多かったようです。
イラク大使が名古屋大学医学部附属病院を視察
「名大での医師の研修は、イラクに希望の種をまいてくれる」
2023年8月3日にイラク大使が名古屋大学医学部附属病院を視察した際、
「非常に困難な時代に、第1号としてこの医療支援の突破口を開いてくれた小島先生と、名古屋小児がん基金にお礼を伝えたい」
ということで、名古屋小児がん基金の事務所を訪問しました。
イラク大使は涙ぐみながら、小島先生と話をされた姿が印象的でした。
「日本人医師たちは日本の治療法や診断法を伝えようと、大変な努力をして向き合ってくれていた。
私はそれに感動して言葉を失った。
日本で学んだ医師たちは、今後イラクで患者を治療し、何百もの命を救うことになる。
そして自分たちが得た知識や技術をさらに別のイラク人医師に伝えていくだろう。
こうした医師の研修は、イラクに希望の種をまいてくれる。
そして医師たちが、イラクの未来を率いてくれると信じている」
「研修が終わった後も、君たちが困難にぶつかれば助けるよ」
最後にナイエフ医師は感謝の気持ちと、小島先生と名古屋大学大学院医学研究科 小児科学/成長発達医学 教授 高橋義行先生から
「援助はこの研修が終わったら終了というわけではないよ。
この先、君たちが困難にぶつかれば助けるし、骨髄移植についても教えます」
という心強い言葉をいただいたと話しました。
ムハンマド医師は
「イラクで若い医師や仲間の医療従事者を私たちが研修しますので、その人たちがより優れた進化版の医療を提供できるようにしていきます。
どうぞこの良い活動を進めてくださるようにお願いしたいと思います」
と、これまでの継続的な支援への感謝も述べました。
皆さまのご寄付は、イラク人医師の育成と、病気で苦しむ子どもたちとご家族が明るい未来を迎えることができるように、大切に活用させていただきます。
ご支援ください
イラクへの医療支援は寄付や活動参加で
みなさんにもすることができます。
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